IREZUMI GLOSSARY

日本刺青の用語集

日本刺青の伝統的な用語は、聞いた事がある言葉も多いと思いますが、意味が分かりにくい言葉もあります。
和彫りの定義が人により違うように用語の定義も曖昧な部分がありますが、和柄のデザインとも関係が深いので一つの参考にして下さい。

デザイン

額彫り

抜き彫りの周囲を墨の濃淡やボカシの技法を使って主題のモチーフに見合った波、岩、雲、炎などを描く技法で、主題のモチーフの周りを囲んでデザインを付け足すことでメインの絵柄を引き立たせたり、また胸と腕、胸と腹など絵柄と絵柄を繋ぎ、全体に統一感を出す効果もあります。全体的なストーリーがもっと読み取りやすくなる様な、主題との関係性があるデザインが選ばれます。

抜き彫り

額等の背景を付けずに動物や人物像などメインのモチーフ(題材)のみの単体を彫るスタイルです。粋な彫りものと言う意味で、旦那彫りとも呼ばれています。見切りがつくと印象も濃くなる為、刺青の厳つさを好まない女性にも人気があり、男女ともに用いることが多い技法です。

総身彫り

どんぶり、臥煙(がえん)彫りとも呼ばれ顔をのぞいて首から下、手首から上、足首から上の胸、背中、腕や足まで全身すべての肌を彫る刺青です。腕の七分以上など胴全面が彫られていればドンブリと呼ばれる事も多いです。『臥煙(がえん)』とは江戸時代に全身に入れ法被とふんどし一枚だけで活躍する町火消し人足の方を指す言葉で、ならず者と言う意味もあるそうです。

ひかえとえぐり

「ひかえ」は腕のつけ根から胸にかけて彫る型を指します。控えるの意味があります。太鼓と呼ばれる事もあります。「えぐり」は抉(え)ぐるの意で、着物など襟ぐりから見えない様に曲線をつける型を指します。頭まで彫っているのは「つぶし」「だるま」「どんぶり」などとも言われます。

胸割り

体を真正面から見た際の体の真中のラインを中心として、頭(首)、胸から下腹部にかけて、中央をあけて彫る型を指します。「ひかえ」を垂直に延ばして彫り下げ、普通は拳(げんこつ)の幅を残して彫ります。「どぶ割り」や「深川彫り」とも言われています。

二重彫り

二重彫りとは、図柄に人物を彫る場合、その人物に彫られた刺青も一緒に彫る事を言います。全身に9頭の龍の図柄を彫っている九紋竜史進や、全身に花の図柄を彫っている花和尚魯智深など水滸伝に登場する人物などが多いです。

隠し彫り

主には和彫りなどで「胸から腕」や「全身」などの大きな図柄を彫った際に、 脇の下の上腕の内側や、内股などの普段はあまり人から見られる事がなく、隙間が開いた部位を利用して全く違う図柄を彫る事を「隠し彫り」と言います。江戸時代には刑罰として左上腕に腕を一周する1本か2本かの線の入れ墨を入れられたそうで、「自分は罪人ではない。刑罰のしるしを隠すために上塗りして彫ったのではなく、粋なお洒落として入れている」と言う事を証明し刑罰と区別するために脇の下(腕の内側)を三角形に隙間を開けて見切りを彫ったのだと言う説があります。隠し彫りで彫られる図柄にはエロティックな「春画」と呼ばれる図柄や、最近ではアニメのキャラクターなどを彫る場合もあります。

化粧彫り

メインとなる図柄の周りの雲や炎や花や波などを「化粧」と呼び、それらを彫ることを「化粧彫り」と言います。鯉には波や岩を、龍には雲をと言った具合にそれぞれのメインの図柄に合う化粧があり、そのルールに従って彫られます。ですが、ご自分の思っていたものと違うならば好きなものを選ばれるのも良いかと思います。

タトゥーにおける手法

手彫り

マシーンによる機械彫りとは違い、針の付いた長い柄(ノミ)でリズムに乗って彫り入れていくスタイルです。突き方は『芋突き』と呼ばれ針を突いてそのまま抜くタトゥーマシーンの様な動きの彫り方と、『ハネ突き』と呼ばれ上方向に持ち上げて弾じく様に入れる事で墨が広がりぼかしの効果が出せる彫り方があり、皮膚を弾く際にはチャッチャッチャッと言う独特の音がします。ハンドポークと呼ばれる手彫りは日本の刺青とはまた違い、針を直接持ちチクチクとシンプルなラインだけのデザインなどを彫ったものを指します。

筋彫り

タトゥーではアウトラインと言いますが、下絵を体に描きその輪郭などの線を描きます。通常の流れとしては、まず筋彫りから始めます。デザインによってラインの太さは変わります。和彫りでは3本位の細い針から、太いものでは20本位をまとめたものなどデザインによって使い分けます。

ボカシ

筋彫りされた中を彫りつぶす方法でシェーディングなどとも呼ばれ、墨の濃淡でグラデーションを付けて立体感を表現する技法です。ボカシと一口で言っても、先に薄めた墨を何種類か用意して彫る薄ボカシ、境目が分からない様にグラデーションをかけた曙ボカシ、新聞印刷の様にドットの大小や密度で濃淡を出す砂利ボカシ、ベタに塗りつぶすつぶしなど技法は様々あります。一般的に筋彫りよりも針の数が多く使われます。

ツブシ

つぶしとは、筋彫り(ライン)を彫った中に、色を塗りつぶす技法を指します。色を入れる技法でも、ぼかしはグラデーションをかけて色の濃淡を付ける技法、つぶしは濃淡を付けずに塗りつぶす技法、と使い分ける場合が多いです。

施術用語

刺青と文身の違い

刺青とはその漢字の通り、肌に墨を入れると墨の黒色が変化して青くなる事からこの漢字が使われる様になったとされています。一般的に広まったのは1910年に発表された谷崎潤一郎の短編小説『刺青』以降だそうで、現在の様にいれずみと呼ばず、しせいと呼んでいたそうです。
文身と言う文字は日本書紀(720年)にも記されている程その歴史は古く、江戸時代の書誌にも多く出ているそうです。
どちらも現在ではジャパニーズスタイルの彫りものを指す意味合いが強いです。

さらい

筋や色などを突き直す事を言います。
「さらい(突き直し)」をする事で、月日が経過して色があせてしまったり筋がぼけてしまった彫り物を、鮮やかに蘇らせることができます。